会社に損害を与えたら全額賠償しなくてはいけないの?
労働者とは生身の人間ですから、全く何のミスも侵さないというのは無理な相談ですね。また、いくら気をつけても、相手側の事情で結果的に会社に損害を与えるということもないとは言えません。
「お前のミスでこんなことになったんだから、お前の責任だ!責任とって、会社の受けた損害を全部賠償しろ!」なんてことになったら、社員は会社に対して損害賠償義務が生じるのでしょうか?
ちょっと考えてみてください、会社が労働者のミスによってこうむる損害は、時にとんでもない高額になります。場合によっては、「一生かかっても払いきれない」という金額ということだってあるでしょう。また、取引先の方が故意や悪意でトラブルを起こして、担当していた社員は単に巻き込まれただけ、ということだってあるでしょう。ミスを起こした本人には、過失を問えないということもあるのです。
このような場合を踏まえて、法律は一定の制限を設けています。
その判断基準の最も中心的なポイントは、労働者本人の重過失や、故意による行為です。
例えば、労働者が働く上で必要な注意義務を十分に果たしているようなときでも、一定の割合でミスが起こってしまうことはあり得ます。たとえば、「取引先に電話をかけたつもりが番号を押し間違えていた。」「書類コピーの部数を多く作りすぎてしまった」になんてことは、誰にでもあるささいなミスであって、気をつけていても、偶発的に起こりうるものです。このようなものは大きな過失や故意はないものとして、賠償を求められることはほとんどないと言っていいでしょう。
反対に、明らかに労働者側に大きな過失があり、あるいは悪意だった場合は、話が変わってきます。
起こった損害と過失のあいだに、明確な因果関係があり、労働者が必要な注意義務や悪意、故意があっての行為で生じた損害については、賠償義務があるとしています。「上司の叱責に対して、腹を立てて会社の窓ガラスや備品を壊した」とか「ハンドル操作を誤って、社用車に傷をつけた」といったものは、明確な故意や、十分な注意を払っていないことと、結果との因果関係がはっきりしています。
こういう場合においては、労働者側に賠償義務が認められます。しかし、その義務の範囲を判断するに当たっては、雇主側には一切落ち度がなかったか?労働者に対して適切な教育は行われていたか?など、雇主側にも一定の負担が生じることが通常です。
例外的に、全ての損害について、労働者が負担をしなくてはならないと判断されるのは、業務上横領や窃盗などの犯罪行為に至った場合で、このような場合は、労働者側に一切の責任があるとされて、その損害のすべてを賠償する義務が生じます。