労働局の紛争調整委員会のあっせんとは?
一般に、「雇主は、働かせている人よりも強い立場」です。日本では特に、雇主が労働者に対して無理難題や、一方的な命令、首切りなどを行ってきた良くない慣習が明治期以降、長く残っています。また歴史的にも、上下の立場の違いを重んじ、長幼の序(年長者と年少者との間にある秩序)に厳しいという慣習も手伝って、どうかすると「社員は社長に絶対服従」のような雰囲気が生まれてしまう危険性が潜んでいます。戦後になって、労働基準法が整備され、こうした労働者と雇主との力の不均衡を正すような決まりを作っても、なお、古い風潮を改められず、一方的に労働者に苦労を強いる雇主や上司は常に存在します。いわゆる「ワンマン社長」な会社ほど、こうした風潮が強いようです。
こうした職場では、社長の気分で賃金が勝手に減額されたり、社員の家庭事情を顧みない配置転換やパワハラ、セクハラ、モラハラなどの問題行為、業務の量の不均衡などが蔓延していたりします。その結果、知らないうちに、賃金、配置転換、解雇などについて深刻な労働紛争が発生することがあります。
このような事態が起こったときに、生計の道を奪われることを恐れて、「違法であることに気づきながらも何も言えない」という場合が、残念なことに、決して少なくないのが現状です。また、勇気をふり絞って、問題点を経営陣に指摘したり、改善を要求したがために、経営陣の怒りを買い、ますます不当な立場に追い込まれてしまったり、不法、違法な解雇や懲戒を受けてしまうなど、事態が悪化するケースもあります。
反対に、雇主側でも、賃金、配置転換、懲戒処分等の問題について、労働者との折り合いがつかず、問題がこじれそうな場合というのも考えられます。
このように、事業所の中だけでは問題解決の糸口さえつかめない、というような状況の場合、その手助けをするのが、「個別労働紛争のあっせん」という制度です。これは、中央労働委員会という組織が各都道府県に設置している個別労働紛争窓口から利用することができます。利用にかかる費用は無料であり、公益側の立場の人(学識経験者等)、労働者側の立場の人(労働組合役員等)、使用者側の立場の人(会社経営者等)の三者で構成されるあっせん員が問題解決の仲立ちを行います。
あっせん員は、両者の主張を聞き取り、それぞれの立場と法例に照らして「あっせん案」を提示して和解を図ります。本格的な訴訟と違って、もっと気の張らない雰囲気で行うことができ、解決にかかる時間も費用も短縮できる利点があります。